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『Happy Rebirthday To You』ジャケット

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海老原靖プロフィール

海老原靖は1976年、茨城県生まれの画家である。
緊張感を孕んだ線と、平坦さを装う色遣いによって描かれる作品は、一切の意味や物語がはぎとられ、一目見ただけでは「何だこれは」と言うしかない不思議な世界である。
それ故、たくさんの矛盾や葛藤を感じ取ることができる。

モデルとなっているポルノ写真から飛び出してきたような少年達も、娼婦の様にたたずむ女性達も、決してあなたを見ているわけではない。
ぞっとするような美しさや危うさを湛えているその瞳が何を捉えているのか、それがあなたではないということだけが唯一確かなことである。
あなたが当事者になることは絶対にない。一介の傍観者に過ぎないのだ。
そこには見ることと見られることからの逸脱と解体されるべき物語からの脱却を見てとることができる。

しかし、海老原靖の作品は解釈を拒否する。
解釈によって主題や対象が希釈されてしまうということ。
芸術はわれわれを不安にする力を持っていて、神経を苛むこともできるということ。
解釈とは芸術の力を飼いならすための行動にすぎないということ。
だからこそ、海老原靖は芸術の本質から目を逸らしたいが故の解釈を拒否する。
海老原靖の描く主題は、既存のエロチシズム、セクシズムに疑問を投げかけ、ジェンダーの狭間で絶えず揺れ動いている。
本質主義の産物たるセクシズムの前においては、ジェンダーという発想が限界に達していることは誰の目にも明らかである。
物語というシステムもジェンダーという概念ももはや何の役にも立たないのだ。

海老原靖も敬愛する女性アーティスト、マルレーネ・デュマスの言葉を思い出す。

芸術の狙いは
常に変わらず
自らの名さえ
失念させること

物語も体温も置き去りにし、抽象も具象も脱ぎ去り、名前も記号も忘れ、
その果てには何が残るのか。
どんなピリオドが打たれるのか。
どんな出口が見つかるのか。

それはおそらく海老原靖本人にもわからないだろう。
そう、それを見届けるのはあなただ。
色彩を読解し、直線を乗り越え、曲線を掻い潜り、
傍観者であるあなたがしっかりと見届けなくてはならない。
そこで初めて、あなたは私に、私は私達に、そして、私達は傍観者から共犯者へと変貌するのだ。


海老原靖ホームページ
http://ebiharayasushi.com/

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